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介護は、準備した人だけが少しだけ楽になれる

介護は、準備した人だけが少しだけ楽になれる

医療現場から見た「準備」の力

はじめに – 二つの家族の物語

医療現場で、私は似たような状況にある二つの家族に出会いました。

どちらも70代の父親が脳梗塞で倒れ、要介護3の状態になりました。
どちらも50代の娘さんが主介護者でした。
経済状況も、家族構成も、ほぼ同じでした。

しかし、半年後の二つの家族の姿は、まったく違うものになっていました。

Aさん家族 – 準備がなかった家族

Aさんの父親が倒れた時、家族は完全にパニックになりました。

**「何をどうしたらいいか、まったく分からない」**

突然始まった混乱の日々

– 介護保険の申請方法が分からず、ケアマネージャーに会うまで2週間
– どんなサービスがあるのか知らず、すべて家族で抱え込む
– 娘さんは突然仕事を休職、収入がゼロに
– 病院から「退院してください」と言われ、自宅に帰るしかない状況
– 介護用ベッドも車椅子も慌てて購入、後で介護保険でレンタルできたと知る
– おむつの種類、介護食の作り方、すべてが手探り

### 追い詰められていく介護者

3ヶ月後、娘さんは明らかに疲弊していました。

「夜中に何度も起こされて、まともに眠れない」
「24時間気が抜けない」
「これがいつまで続くのか、考えると怖い」
「自分の人生を犠牲にしている気がする」

娘さんは不眠症になり、抗うつ薬を処方される状態に。
父親への言葉も、日に日にきつくなっていきました。

**準備がなかったため、選択肢が見えず、すべてを一人で抱え込んでしまったのです。**

 

Bさん家族 – 準備があった家族

Bさんも父親が脳梗塞で倒れました。もちろん、ショックでした。
でも、Bさん家族の対応は違いました。

冷静に動けた理由

2年前、Bさんは母親の介護を経験していた友人から、こう言われました。

「いつか来るから、今のうちに勉強しておいたほうがいいよ」

その言葉をきっかけに、Bさんは準備を始めていたのです。

**Bさんがしていた準備**

1. **地域包括支援センターの場所を確認**
– 連絡先をスマホに登録
– 一度相談に行き、担当者と顔見知りに
1. **介護保険制度の基礎知識**
– 市の介護保険パンフレットを読む
– どんなサービスがあるか、おおまかに把握
– ケアマネージャーの役割を知る
1. **家族会議の実施**
– 兄弟で「もしも」の話し合い
– 誰が主介護者になるか
– 費用負担をどう分担するか
– 施設入所も選択肢として話し合う
1. **資金の確認**
– 父親の年金額
– 貯蓄額
– 月々どれくらい使えるか試算
1. **地域のサービスを下調べ**
– 近隣のデイサービス施設
– 訪問介護事業所
– 将来的な施設の候補

父親が倒れた時

Bさんは、準備していたメモを取り出しました。

– **即日、地域包括支援センターに連絡**
– **3日後にはケアマネージャーと面談**
– **1週間で介護保険申請、ケアプランの作成開始**
– **退院前に訪問介護、デイサービスの手配完了**
– **福祉用具はレンタルで、費用を最小限に**
– **兄弟で役割分担、費用負担も事前の話し合い通りに**

3ヶ月後の姿

Bさんは疲れてはいましたが、笑顔がありました。

「大変だけど、なんとかなってます」
「週に2回はデイサービスに行くから、その間は自分の時間が持てる」
「夜間は訪問介護を週1回入れて、たまにはぐっすり眠れる」
「兄が費用面でサポートしてくれるのが心強い」

**準備があったから、選択肢が見え、適切なサービスを組み合わせられたのです。

なぜ「準備」が力になるのか

 1. 選択肢が見える

準備をしていない人は、目の前の問題に押しつぶされます。
「どうしたらいいか分からない」という不安で、視野が狭くなる。

準備をしている人は、**「AとBとCの選択肢がある」と見えています。**

– 在宅介護という選択肢
– デイサービスという選択肢
– ショートステイという選択肢
– 施設入所という選択肢
– サービスの組み合わせという選択肢

選択肢が見えるだけで、人は安心できるのです

2. イメージできることは準備できる

人間は、イメージできないことには対処できません。

**準備がない人の頭の中**

「介護」= 漠然とした不安と恐怖
何が起こるか分からない

どれくらい大変か想像もつかない

**準備がある人の頭の中**

– 「介護」= 具体的な状況とやるべきこと
– 「まずケアマネに相談、次にサービス選択」
– 「月10万円くらいかかる、年金で5万円は賄える」

**イメージできれば、心の準備もできます。**
**心の準備ができていれば、冷静に動けます。**

3. 早く適切なサポートにつながる

準備がない人は、制度やサービスを知るまでに時間がかかります。
その間、すべてを一人で抱え込み、疲弊していきます。

準備がある人は、**すぐに適切なサポートにつながれます。**

– 初動が早い
– 無駄な労力を使わない
– 専門家の力を借りられる
– 孤立しない

4. 心に余裕が生まれる

「どうしよう、どうしよう」と右往左往している状態と、
「こうすればいい」と道筋が見えている状態では、
心の余裕がまったく違います。

**心の余裕があれば**

– 介護される人に優しくできる
– 自分のケアもできる
– 冷静な判断ができる
– 長期戦を乗り切れる

—–

「準備」とは何をすることか

今すぐできる準備(知識編)

1. 地域包括支援センターを知る(30分)

お住まいの地域の地域包括支援センターを調べ、連絡先を保存してください。

**今すぐスマホで検索:「〇〇市 地域包括支援センター」**

これだけで、いざという時の窓口が分かります。

2. 介護保険制度の基礎を知る(1時間)

市区町村の介護保険パンフレット(HPでPDF公開されている)を読むだけでOK。

**知っておくべき最低限のこと**

– 介護保険は40歳以上の全員が加入している
– 要介護認定を受ければサービスが使える
– ケアマネージャーが計画を作ってくれる
– 自己負担は1〜3割(所得による)
– 在宅サービスと施設サービスがある

3. どんなサービスがあるか知る(1時間)

**主な介護サービス**

– **訪問介護**:ヘルパーが自宅に来て、食事・入浴・排泄などを支援
– **訪問看護**:看護師が自宅に来て、医療的ケア
– **デイサービス**:日中、施設に通って、入浴・食事・リハビリ
– **ショートステイ**:数日〜1週間程度、施設に宿泊
– **福祉用具レンタル**:車椅子、介護ベッドなど
– **住宅改修**:手すり設置、段差解消など

**サービスの名前を知っているだけで、いざという時に「これが使えるかも」と思いつけます。**

4. 費用の相場を知る(30分)

– 在宅介護:月5〜10万円(要介護度による)
– 施設入所:月10〜30万円(施設の種類による)
– 平均介護期間:約5年

**ざっくりとした金額感を持っているだけで、資金計画が立てられます。**

今すぐできる準備(行動編)

1. 家族会議を開く(2時間)

**話し合うべきこと**

– もし親が介護が必要になったら、誰が主に担当するか
– 費用負担をどう分担するか
– 在宅か施設か、それぞれの考え
– 親自身の希望(元気なうちに聞いておく)

「縁起でもない」と思わず、**「いつか来るから、今のうちに」**という前向きな姿勢で。

2. 親の資産状況を確認する(1時間)

元気なうちに、親と一緒に確認しましょう。

– 年金額(月額)
– 貯蓄額
– 保険の有無
– 不動産の有無

**これが分かっていれば、いざという時の資金計画が立てられます。**

3. 地域のサービスを下見する(半日)

実際に歩いてみると、イメージが湧きます。

– 近所のデイサービス施設
– 訪問介護事業所
– 将来的な施設の候補

「ここなら通えそうだな」「ここは綺麗だな」と感じるだけで、いざという時の選択がスムーズになります。

4. 体験者の話を聞く(随時)

実際に介護を経験した人の話は、何よりも貴重です。

– 友人、知人、同僚
– 地域包括支援センターの相談会
– 介護者の会

**リアルな情報が、一番イメージしやすいです。**

 

準備の最大のメリット:「心の安心」

医療現場で何百もの家族を見てきて、確信していることがあります。

**介護の大変さは、準備しても準備しなくても、それほど変わりません。**

でも、**心の安心感は、まったく違います。**

準備がない人は、
「この先どうなるんだろう」という不安に押しつぶされそうになります。

準備がある人は、
「大変だけど、こうすればなんとかなる」という見通しを持てます。

この差は、とてつもなく大きいのです。**

 

始まる前の知識が、あなたを救う

「まだ元気だから、介護なんて先の話」

そう思う気持ちは分かります。

でも、**介護は突然始まります。**

– 脳梗塞
– 骨折
– 認知症の急激な進行

ある日突然、「明日から介護が必要です」と言われるのです。

**その時、知識があるかないかで、あなたの人生が変わります。**

医療現場からのメッセージ

私は医療現場で、準備があった家族と、準備がなかった家族の、あまりにも大きな差を見てきました。

準備があった家族は、大変な状況でも、笑顔を失いませんでした。
準備がなかった家族は、疲弊し、追い詰められ、時には家族関係が壊れていきました。

**介護は、誰にでも来ます。**
**避けられません。**

でも、**準備することはできます。**

準備は、あなた自身を守ります。
準備は、あなたの家族を守ります。
準備は、介護される人の尊厳を守ります。

今日から始める「準備」

1. **この記事を読んだら、まず地域包括支援センターを検索する(5分)**
1. **市区町村の介護保険パンフレットをダウンロードする(5分)**
1. **家族にこの記事をシェアする(1分)**
1. **週末に、家族で「もしも」の話をする(2時間)**

たったこれだけです。

でも、この小さな一歩が、いざという時に、あなたを救います。

最後に

**介護は、準備した人だけが、少しだけ楽になれる。**

「楽」になるわけではありません。
「少しだけ楽」になるだけです。

でも、その「少しの差」が、長い介護生活を乗り切る力になります。

**人間は、イメージできることには、準備できます。**
**準備できていることには、対処できます。**

今日、この瞬間から、「準備」を始めてください。

未来のあなた自身と、あなたの大切な家族のために。

 

**医療現場から、心からお伝えします。**

準備は、決して「縁起でもない」ことではありません。
準備は、「大切な人を守るための、愛情ある行動」です。

今日から、始めましょう。

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